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絶滅危惧種のウミガメ~浜辺にいるからこその課題~

ウミガメ

ウミガメが直面する“浜辺”の危機

ウミガメは、その悠々と泳ぐ姿から「海の守り神」などと呼ばれ、昔から親しまれてきた存在です。
けれど、そんなウミガメたちが今、世界中で絶滅の危機にさらされていることをご存じでしょうか。

その理由のひとつが、「産卵する浜辺」にまつわる問題です。
ウミガメは、成熟すると自分が生まれた浜辺に戻り、砂の中に卵を産み落とします。
しかし、近年はその“産卵場所”が減ってきているのです。

観光開発やリゾート建設で、ウミガメが上陸できる静かな浜辺が激減。
防波堤や人工構造物が砂浜を削り、卵を産むための場所そのものがなくなってしまうこともあります。
また、ビーチの清掃が過剰に行われることで、砂の下に隠れていた卵が掘り返されるなど、人間の善意が裏目に出るケースもあるのです。

さらに、もうひとつ深刻なのが「光害(こうがい)」と呼ばれる問題です。
夜の浜辺に近くの街灯や建物の照明が漏れていると、ウミガメの赤ちゃんが「海」ではなく「光の方向」へと進んでしまい、命を落としてしまうことがあります。

生まれたばかりの赤ちゃんガメにとって、月明かりや星の明るさが「海の方向」を示すナビゲーションの役割を果たしているのです。
人工の明かりがその感覚を狂わせ、道路や人家の方に迷い込んでしまうことは、世界各地で報告されています。

自然のサイクルの中で生きてきたウミガメにとって、“浜辺の変化”は命に関わる重大な問題です。
見落とされがちですが、私たちの暮らしが思わぬ形でウミガメの未来を脅かしているのです。

ウミガメの未来は「海」だけでは守れない

ウミガメが絶滅危惧種に指定されている理由は、浜辺の問題だけではありません。
もうひとつの大きな脅威が、海洋プラスチックごみです。

ウミガメは、クラゲなどのやわらかい生き物を好んで食べます。
そのため、海に浮かぶレジ袋をクラゲと間違えて食べてしまうことが多く、消化不良や窒息の原因となります。
また、胃の中がごみでいっぱいになると、満腹だと錯覚してエサを食べられなくなり、衰弱してしまうことも。

こうした被害は世界中の海で確認されており、日本近海でも見つかっています。
ウミガメにとって「泳げる海がある」というだけでは十分ではなく、安心してエサを食べ、繁殖できる環境が整っていることが重要なのです。

また、漁業の網にかかってしまう「混獲(こんかく)」も問題になっています。
漁師さんたちにとっては狙っていない“誤って獲れてしまう生き物”ですが、ウミガメにとっては命取りです。
こうした問題に対しては、「ウミガメが逃げやすい構造の網」を導入するなどの取り組みも進んでいますが、まだまだ世界的には課題が残っています。

つまり、ウミガメを守るというのは「海」だけでなく、「浜辺」「人間の生活」「漁業」など、多方面にわたる取り組みが必要だということです。

その中で私たち一人ひとりができることは、決して小さくありません。
海辺のごみ拾いや、プラスチック製品をなるべく使わない暮らし方。
海の近くでは夜間の光を控える工夫や、ウミガメの産卵期に浜辺をそっと見守る姿勢も大切です。

人間の何気ない行動が、遠く離れた海の生き物に影響を与えている。
そのことに気づけたとき、きっとウミガメとの“共存”はもう始まっているのかもしれません。